ほぼ数学科の大学生の備忘録。

数学/物理の話をしていく…つもりだった……

楕円曲線上のねじれ群の分解

 E を,体 K 上の楕円曲線としたときに, 互いに素な整数  a,b について
\begin{equation}
E[ab] \simeq E[a] \oplus E[b]
\end{equation}

となることの証明につまずいたのでメモしておく.

ここで示す必要があるのは,

  • 直和の正当性
  • 同型写像の存在

の2つ.

直和の正当性

直和の正当性をしめすには,

  • 共通部分が自明(無限遠点のみ)
  • 和が一意

の2つを示せばよい.

共通部分が自明

まず,前者について,  P \in E[a] \cap E[b] を取ると,  P の位数  {\rm ord}\ P a,b, をともに割り切る.
 a,bは互いに素なので,  {\rm ord}\ P = 1 となり,  P = \infty が示される.

和が一意

後者について,
\begin{equation}
P_1 + Q_1 = P_2 + Q_2\
\left(
\begin{aligned}
P_1,P_2 &\in E[a] \\
Q_1,Q_2&\in E[b]
\end{aligned}
\right)
\end{equation}
であると仮定する.このとき  P_1 = P_2,\ Q_1 = Q_2 であることを示せばよいが,
\begin{equation}
P_1 - P_2 = Q_2 - Q_1
\end{equation}
であり,左辺は  E[a] の元の引き算なので  E[a] の元で,同様に右辺は  E[b] の元である.
既に  E[a] \cap E[b] = \{\infty\} であることは示しているので,
\begin{equation}
P_1 - P_2 = Q_2 - Q_1 = \infty
\end{equation}
となり, P_1 = P_2,\ Q_1 = Q_2 が従う.

以上より,直和の正当性は示されれた.

同型写像の構成

次に,具体的に写像を与えて,その同型性を示す.
直感的にもそうだが,同型写像
\begin{equation}
P\in E[ab] \mapsto ([b]P,[a]P) \in E[a] \oplus E[b]
\end{equation}
とする*1.この写像の準同型性はスカラー倍の準同型性に帰着されるので明らか.
従ってここではこの写像全単射(従って,単射性と全射性)を示せばよいことになる.以下,この写像\psi と置く.

単射

 P_1, P_1 \in E[ab] について,\psi(P_1)=\psi(P_2) とすると,特に  [a]P_1 = [a]P_2 なので,
\begin{align}
[a]P_1 - [a]P_2 &= \infty \\
[a](P_1-P_2) &= \infty \\
P_1 - P_2 &\in E[a]
\end{align}
となる.同様に,  P_1 - P_2 \in E[b] も示されるので,
\begin{equation}
P_1 - P_2 \in E[a] \cap E[b] = \{\infty\}
\end{equation}
より,  P_1 = P_2 が従う.よって  \psi単射であることが示された.

全射

 P\in E[a], Q \in E[b] を固定する.

ねじれ群は,代数閉包 \bar{K}上で定義されることに注意する. E(K) \to E(K) なる自己準同型写像全射なので*2 [b] R_1 = P となる  R_1 \in E(\bar{K}) が存在する.このとき,
\begin{equation}
[ab] R_1 = [a]([b]R_1) = [a] P = \infty\ (\because P \in E[a])
\end{equation}
より,  R_1 \in E[ab] である.


(直感的な話)
この  R_1 が,  [a]R_1 = Q を満たすとは限らないが, R_1 には  E[b] 分の自由度があることに注意する.つまり,任意の  B \in E[b] について, [b](R_1 + B) = P が保たれる.以下,これを用いて  b 倍したときの値は変えないまま  a 倍したときの値が  Q になるように調整する.

このR_1に対し,集合
\begin{equation}
\mathcal{A} = \{ [a] (R_1+A)\ |\ A\in E[b] \}
\end{equation}
を考える.  \mathcal{A}\subseteq E[b] は明らかで,  A_1, A_2 \in E[b] に対して,
\begin{align}
&[a](R_1+A_1) = [a](R_1+A_2)\\
\Rightarrow & [a](A_1 - A_2) = \infty \\
\Rightarrow & A_1-A_2 \in E[a]
\Rightarrow & A_1 - A_2 \in E[a]\cap E[b] = \{\infty\}
\end{align}
となるため,  \#\mathcal{A} = \#E[b] であることが分かる. \mathcal{A}\subseteq E[b] と  \#\mathcal{A} =\#E[b] から,  \mathcal{A} = E[b] であることが示される.

従って,  Q\in E[b] に対し,ある  A\in E[b] が存在して, [a] (R_1+A) = Q が成立し,この  R_1+A \in E[ab] は, \psi(R_1+A) = (P,Q) を満たすため,  \psi全単射となる.

*1:筆者は良く知らないが,ほかにも同型写像の取り方はあるかもしれない.

*2:L. Washington. "Elliptic Curves; Number Theory and Cryptography" 参照.直感的な証明としては,閉体の上では,点  Q\in E(\bar{K}) が与えられた時に方程式  \alpha(P)=Q が解けるため.