ほぼ数学科の大学生の備忘録。

数学/物理の話をしていく…つもりだった……

非加算無限集合

前回、加算非加算無限 - ほぼ数学科の大学生の備忘録。この記事の最後で実数全体の集合\mathbb{R}は非加算無限集合であるという話をしました。
今回は、対角線論法を用いたその証明をしたいと思います。

まず、区間I=(0,1)から\mathbb{R}には全単射が存在します。例えば、
g(x)=tan\left(\cfrac{2x-1}{2} \pi \right)
とすれば、gは全単射です。

従って、自然数全体の集合\mathbb{N}から区間I=(0,1)全単射がないことを示せばよいことになります(\mathbb{N}からI全単射があれば上の全単射と合成することで\mathbb{N}から\mathbb{R}への全単射が作れますし、\mathbb{N}からI全単射がなければ\mathbb{N}から\mathbb{R}全単射があると上の全単射の逆写像と合成することで\mathbb{N}からI全単射が作れてしまい矛盾するからです)。

ここで、\mathbb{N}からI全単射fが存在するとします。このとき、
\displaystyle I=\{a_i\ |\ i \in \mathbb{N},a_i=f(i)\}=\{a_1,a_2,a_3,\cdots \}
と書けます。この各a_iに対して、2進数展開をします。つまり、
\displaystyle a_i=\sum_{j=1}^{\infty} a_{ij}2^{-j}
となるようなa_{ij}を考えます。ここで、各a_{ij}\in {0,1}です。

このa_{ij}に対し、b_i=\lnot a_{ii}とします。但し\lnotはビット反転を表す記号で、0だったものを1に、1だったものを0にします。つまり、
\displaystyle b_i=
\begin{cases}
1\ (a_{ii}=0のとき) \\
0\ (a_{ii}=1のとき)
\end{cases}
となります。ここで、
\displaystyle b=\sum_{i=1}^{\infty} b_i 2^{-i}
とすれば、たしかにb \in Iですが、どのa_iとも2^{-i}の桁の係数が違うので矛盾します。

以上より\mathbb{N}からIには全単射fが存在しなことが分かり、I\mathbb{R}は非加算無限集合であることが示せました。

このような論法(すべての要素から一つずつ取ってきたものを用いる方法)を対角線論法といいます。

加算非加算無限

無限には二種類あるということを知っていますか?

聞いたことがある人も多いと思いますが、無限は自然数の無限である加算無限と、実数の無限である非加算無限があります。


無限集合のうち、自然数全体の集合 \mathbb{N}から全単射が存在する集合を加算無限集合といいます。逆に、\mathbb{N}からの全単射が存在しない集合を非加算無限集合といいます。
全単射が存在するということは、その集合の要素に一対一対応が存在するということなので、イメージとしては集合の要素の「数」が同じ、ということです。

感覚として分かる人も多いかと思いますが、例えば自然数のうち偶数だけを取ってきた集合(ここでは\mathbb{N}_{even}と書きます)や、整数全体の集合\mathbb{Z}は加算無限集合です。
\mathbb{N}から\mathbb{N}_{even}への全単射fは、例えば
\displaystyle f(n)=2n
とすることで得られ、\mathbb{N}から\mathbb{Z}への全単射gは、例えば
\displaystyle g(n)=\begin{cases}
\cfrac{n-1}{2}\ (nが奇数) \\
\cfrac{n}{2}\ (nが偶数)
\end{cases}
とすることで得られます。

また、非加算無限集合の代表例は、実数全体の集合\mathbb{R}です。
\mathbb{N}\mathbb{R}の間に全単射が存在しないことを示すには、対角線論法という論法を使うのですが、これの説明は次回に回したいと思います。

Legendre多項式関連の式

Legendre多項式についての次の式の証明がネットで調べても見つからなかったので紹介しておきます。 P_n(cos \theta )=\cfrac{1}{n} \sum_{r=1}^n cos(r \theta )P_{n-r}(cos \theta ) \tag{1} まず、n=1,2については、 \[ P_0(x)=1,\ P_1(x)=x,\ P_2(x)=\cfrac{3x^2-1}{2}\]などから直接示すことができます(cosの加法定理を用います)。 次に、n=k,k-1での成立を仮定します。 ここで重要になるのは、cosについての次の式です。 \[ \tag{2} \cos(r+1)\theta+\cos(r-1)\theta=2\cos\theta\cos r\theta \] また、ボネの漸化式と呼ばれる以下の漸化式も、今回の証明に利用しますが、そうでなくてもLegendre多項式の重要な式の一つです。 \[\begin{align} \tag{3} (n+1)P_{n+1}(x)=(2n+1)P_n(x)-nP_n(x)\end{align} \] 以下、 \[ Q_n(\theta)=\sum_{r=1}^k\cos(r\theta)P_{k-r}(\cos\theta)\] とします。このとき、(1)式は \[ P_n(\cos\theta)=\cfrac{1}{n}Q_n(\cos\theta) \] と書けます。また、(2)式より、 {\displaystyle \begin{align} 2\cos\theta Q_n(\cos\theta)&=\sum_{r=1}^k\cos(r+1)\theta \ P_{k-r}(\cos\theta)+\sum_{r=1}^k\cos(r-1)\theta \ P_{k-r}(\cos\theta)\\ &=\left(Q_{k+1}(\cos\theta)-\cos\theta\ P_k(\cos\theta)\right)+\left(Q_{k-1}(\cos\theta)+P_{k-1}(\cos\theta)\right)\end{align} }
となります(1行目→2行目は余分な項を引いて帳尻を合わせています)。 さらに変形を進めて、
{\displaystyle \begin{align} Q_{k+1}(\cos\theta)&=(2k+1)\cos\theta\ P_k(\cos\theta)-k\ P_{k-1}(\cos\theta)\\ &=(k+1)P_{k+1}(\cos\theta) \end{align} }
これは、(1)式がn=k+1でも成立することを表しています。 以上より、任意の自然数nに対して、 \[ P_n(\cos\theta)=\cfrac{1}{n}\sum_{r=1}^n\cos(r\theta)P_{n-r}(cos\theta) \] が成立することが示されました。

行列のおはなし。

今回は、正方行列(行と列の大きさが等しい行列)についてのみ考えます。

a,b\in \mathbb{R}に対しては、 ab=0 \Rightarrow a=0\ or\ b =0 が成り立ちます。

しかし、一般の行列A,Bについては、同様の定理は成り立ちません。

代数学の言葉で言えば、このような定理が成り立つものを「整域(integral domain)」といいます。正方行列は整域でない環の例として有名です)

これは、全ての行列に対して逆行列が存在するわけではないことが原因となっています。

まずは、逆行列を定義します。

正方行列Aに対して逆行列A^{-1}とは、
AA^{-1}=A^{-1}A=I
が成り立つような行列のことです。
ただし、Iは単位行列です。

逆行列は全ての行列に存在するわけではなく、逆に逆行列を持つ行列のことを正則行列といいます。

行列が正則になる条件(必要十分条件)はいくつかありますが、特に重要なのは以下の二つです。

Aが正則
\Leftrightarrow det(A) \neq 0
\Leftrightarrow Aの各行ベクトルが線形独立

束の分配不等式の証明

束の分配不等式の証明が少し調べたところ見つかりにくかった(というより日本語では見つけられなかった)ので、書いておこうと思います。

そもそも、束の分配不等式とは何かというと、任意の束の任意の元A,B,Cについて、

A \land (B \lor C) \geq (A \land B ) \lor (A \land C)

A \lor (B \land C) \leq (A \lor B ) \land (A \lor C)

が成り立つ、というものである。これが任意の組み合わせについて等号で成り立つとき、その束を分配束という。

確認だが、

A \leq B \Leftrightarrow A \land B =A または A \lor B=B

である。

また、この定義から

A \land B = \sup\{A,B\} , A \lor B = \inf\{A,B\}

であることが示される。 

では、実際に証明してみる。

第1式のみ証明する。

\leqの定義より、A\geq A\land BA\geq A\land C であるので、

A \geq (A\land B) \lor (A \land C)が成り立つ。

これは、Aが(A\land B)(A\land C)の上界に入っており、右辺は最小の上界であることから示される。

また、(B \lor C) \geq B \geq (A \land B)(B \lor C) \geq B \geq (A \land C)であるので、上と同様にして

(B \lor C) \geq (A\land B)\lor (A \land C)

が成り立つ。

したがって、示したい式の右辺はAとB \land Cの下界であり、左辺はAとB \land Cの最大の下界なので、(左辺)\geq(右辺)が成立する。

 第2式も同様にして示される。

なんだかなあ、と思うこと

このブログの最初の記事になります。よろしくお願いします。

 

早速ですが、因数分解を塾の生徒に教えているとすごく違和感を感じることがあります。

中学校の範囲では、

 \displaystyle 2x^2-5x-3 = (2x+1)(x-3)

のようないわゆるたすきがけの因数分解は指導要領外になっています。

しかし、中学の問題集を見ていると、

 \displaystyle 4x^2-12xy+9y^2 = (2x-3y)^2

のような因数分解は普通に出てきます。

 

これは、

 \displaystyle x^2-2xy+y^2=(x-y)^2

の公式を用いた因数分解だから指導要領内である、というロジックのようなのですが、個人的にはとても違和感を感じるところであったりします。

 

問題集の解答にも当然のように

「この形は

 \displaystyle x^2-2xy+y^2=(x-y)^2

 の公式を使う形なので・・・」

とか書いてあって頭を抱えたことがあったりなかったり。

 

(追記)

文科省の指導要領です。

第2章 各教科 第3節 数学:文部科学省